「ナエマの丘」

腐った心に歯車

2021年9月2日

オアフ島の朝の海辺

この写真を見たときの印象がこのタイトルの通りである。歯車が打ち込まれゆっくり動いている。

 

いつからか心を整えたいときに写真を眺めるようになった。眺めていると、数年前によく通っていた美術館のシダネルと向かい合っているときの心のありようと似ていた。シダネルの絵画と向かい合い消化できない何かをそこに落とし込んでいた。そのために会社を急ぎ足で立ち去り家族に嘘をついて美術館へ足を運んでいた。

 

 

この写真を眺める日々が数日過ぎたある日、解体されるビルの敷地内に設置してあるオブジェを運搬する仕事が回ってきた。銀座にある大手広告代理店の旧社だったそのビルとオブジェを制作したのは有名な建築家だったそうで(オブジェにはKENJI?のような名前が彫られていた)そのご家族がどうしても残したいとのご意向でオブジェのみ解体から逃れた。普段は建築資材の運搬が中心の会社に美術関係の仕事が回ってくることは初めてらしかった。もちろん私も初めてなのでとりあえず対応することに。

現場では美術品を運搬する専門の方と連携しての作業になった。屋外の一角に台座で固定されているオブジェを根元で切り離し、トラックへ積載する作業が行われた。

数時間後に作業はすべて完了し、運搬先は都心の喧騒から離れた山梨県の山の中にある美術館だった。

 

無事にオブジェの運搬もすべて終わり一息ついたころ、山の麓にある美術館の敷地から眺める美しい山々の景色を見て感じた。

時間の流れ方がいつもと違う。全体を流れてくる何かが。なにかキレイな空気。なぜか懐かしい感じがした。もともと美術館が好きなのでそれもあったかもしれない。

 

こんな空気を感じながら仕事をしたい。

こんな空気を感じながら生きたい。

この空気に囲まれながら生きたい。

 

と強く思った。残りの人生がそうあってほしいと考えてしまった。わずかな思考。

オブジェの前で記念写真を撮ろうと提案してくださったご家族から逃げるように私はその場を立ち去った。

 

 

いつからこんな人間になったのだろうか。こんなクズ人間に。

今の生き方を振り返ってみる。

家族のために仕事をしている。仕事前の鏡に映る作業服、死相を蓄えた自身を眺める。自身の未熟さが原因でたどり着いた死にたいくらい苦手なトラックの仕事をするために全ての感覚を切断した。社内では限りなくドライに振舞う。家族の前では仕事の話をしない、愚痴を言わない。感情を出さない。感情のない虚無=家庭内の平和。それを普遍的にすると決断した毎日。

クズ人間。

借金の残高とにらめっこする給料日。一円でも早く返したいので隠れてお小遣いからも捻出している。自分のやりたいことは借金を返し終わったらと言い聞かせる毎日。そうやって6年が過ぎた。忍耐力なら負けない。でも今頃は借金がなかったら家のローンは終わってたなぁ…なんて考えたりもする。

ド底辺。

家庭のコスト削減のため原付バイクで通勤して8年目。老害による追突二件、ひき逃げ一件。それでも原付に乗り続ける。一日でも早く返し終わるため。

惨めだ。

給料の変動によりお小遣いが五千円を下回ったとき、銘木で自作したスパイスケースを販売して収入を得ることを発起する。ピンチはチャンスと言いたいところだがそんな余裕は一ミリもなかった。スキマ時間でスパイスケースを作り続けた。毎日作り続けた。思考を止めないために酒も控えた。ストレスが溜まるのを感じたが思考が止まるよりよっぽどマシだ。とにかく毎日作り続ける。

 

何かを取り戻そうと必死になっているのかもしれない。

 

本当の自分が望むものはなんなのか。

 

そんな中で偶然にも美術関係の仕事と出会った。

 

 

ナエマの丘を目指してからそれなりに頑張ってきた。美術関係の方から名刺をいただいた。ナエマの丘へは美術関係の仕事を目指したらより近づけるかもしれないと直感した。

 

勇気を出してみようか。

 

この写真と出会ったときに打ち込まれた歯車はゆっくりと動いている。それと関係しているかもしれないので確認作業も踏まえて。

 

  • この記事を書いた人

ケラ

とくに何もない人。何かが人より秀でているとか自慢できるスキルがあるとか羨ましがるキャリアがあるとかが何もない人。時折キャンプに行ってます。料理を作るのが好きです。

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