お盆に4日間だけ美術の仕事をいただいた。
前回の仕事は2年のブランクがあったが今回は2か月とかなり縮まった。そして現場はムサビこと武蔵野美術大学。中卒の私にとって大学ってだけでも緊張するのにムサビでいきなり仕事ができるとは。
今回の仕事内容は大学内にある美術館で展示してあった作品の搬出作業だ。作品は全てデリケートなので慎重に作業を進めるのだが作品の中には1t以上の重さがあったりする。そして細かいところはすべてマンパワー。
周りには美術に関係する人達ばかり。美術館の中で美術品に囲まれての仕事はあっという間に時間が流れる。
あっという間に初日が終わった。3泊で隣り町にある駅近くのホテルをとっていただいた。久しぶりの単身生活はなかなか新鮮だったのもつかの間、洗濯や食事が環境の違いからかなり手間取った。ホテルの別フロアにあるコインランドリーの洗濯が一回300円、乾燥が200円ってなかなかお財布事情に痛い。さらに現代のご時世では500円払ってもご飯を満足に買えない。ホテルの向かいに大型スーパーがあったので閉店1時間前に行って弁当の半額を狙う。今の時期は朝ご飯をしっかり食べないと倒れてしまうので朝食も半額セールで一緒に購入。あと寝る前のささやかな楽しみ。
慣れないホテルで家事をやっていると時間はあっという間に過ぎる。19時頃にチェックインしたのにあっという間に3時間が経っていた。風呂上りにガウンを着てダブルベッドで横になる。テレビをつける。テレビをつけてルームシアターのチャンネルを回すとアダルトコーナーを発見。しかし残念ながらそれで興奮するほど若くはない。それに一日1000円って。その金あるならファミマでTシャツ買うよな。
2日目、今日は昨日より早く終わったので手持ち無沙汰になった。私はアダルトチャンネルに払う1000円の代わりに近所の本屋さんで小説を購入。駅近ってなんでもある。とても便利だ。
ずいぶん久しぶりに感じる。ベッドサイドに間接照明を灯し、眠くなるまでの読書。物語を夢の中まで連れていきたい。
3日目、さすがに人肌恋しくなってきた。日中にジョークでデリヘルは呼んだのかと聞かれた。適当に流しておいたが人によってはそうしているのか。そうする気持ちも今ではわかる気がする。出張マッサージ的なのと夜ご飯を一緒に食べたいと思った。今は美術の仕事で精神が満たされているがそうでなかったら大人の関係も欲してしまうのではないかと思った。心のスキマというか満たされることが習慣になってしまった人は精神的にもろい。そうなりそうだったら倒れるくらいまでランニングをしよう。
しばらく忘れていたが、一人は辛い。慣れてしまう辛さと温もりを求めてしまう辛さ。私は耐えられるが耐えられない人も多いだろう。耐えられなくてもそれでも耐え続けている人もいるだろう。そういう人達と均等にバランスを保ちながら共に生き残ることができればよいのだが。デジタルソリューションは進化し続けているのに人間がなかなか追いついていかない。
最終日の朝、チェックアウトの際にホテルのフロントでお礼を伝えて出て行った。戻ってくるたびに部屋がキレイになっている有難さ。日本に生まれてよかった。
仕事内容については元受けの方からは自由に発信していいと言われたが仕事に夢中で写真を撮ることを忘れていた。会社を作って本格的に始動することになったらSNSのアカウントを作って発信していこうと考えている。
ムサビの構内に植えられていた樹木。一部が腐食して樹洞になり始めていた👇
仕事の写真は忘れるのに樹木は撮るってどういうことでしょうか。樹木のスキマから木材のピースがこぼれ落ちるようで感性に刺さりました。
4日間大変貴重なお仕事をさせていただいた。2日目には銀座の画廊で有名作家の彫刻作品を運搬をすることができた。最終日には貴重な作品を倉庫の中で独り占めで対峙させていただいた。あの有意義な時間の流れ。いや、時間を忘れてしまった。
今までの苦しみや苦労がこの時のために用意されてたなら、もう一度受け入れることもできる。そう思えるくらい貴重な対峙の時間だった。満たされた時間の中で永遠に向かって柔らかく螺旋状に伸びる影のような存在を感じた。
以前、娘と美術館にいったときに私が船越桂の作品をずっと観ていたのが気になったらしく「あの作品の何がいいの?」と聞かれた。正直イラっとしたが冷静になって「この作品に辿り着くのに長い時間がかかったんだよ」と説いた。それを聞いた娘は「何言ってんだ?こいつ」的な顔をして何もなかったかのように日常会話に戻った。
そのあと私は「アートに関心のない人にアートの良さを説くほど無駄な時間はないと思っている。ので美術館に行ったら気になった作品にだけ興味を持てばいいし、興味がなければそれでいいので私の時間を邪魔しないでほしい。何がいいのか気になったらその作品について深めればいいことだし聞く前にその作品を通じて作家との会話に臨んでほしい。何がいいとかわかるとかわからないとかマジで鬱陶しい。作品はある意味では作家に通じるカギでしかないので。作家の世界を覗き見るフィルターのような存在なので。その世界に行くために時間を費やしてごらんよアートに。クソつまんないテレビ番組を垂れ流したりくだらないスマホゲームで時間を溶かしてないで。」
と言いそうになったがこんなことを言ったら娘は一生アートに関心を持たなくなるので我慢した。
今回の仕事では人間的な学びもたくさんさせていただいた。周囲の品格の高さに私がここにいてもいいのか自問してしまった。私はここにいたいのでこれからも学ぶ姿勢を怠らず陰キャを封印して頑張る。
次回は9月の中旬に呼ばれている。6月にお手伝いさせていただいた展覧会の搬出作業だ。今回の作業で120キロくらいある作品を持ち上げるのに筋肉が足らず腰を使ってしまった。とても不甲斐ない結果を出してしまったので9月に向けてトレーニングの負荷を上げていこう。
ナエマの丘が少しづつ見えてきた気がする。